「テレビの視聴率悪化の要因は、ネットの進出・違法配信と良く言われるが、一度足元を見ていただきたい。果して現代の視聴者は、テレビを見る時間があるのか」
「何もネットに時間を割いている人ばかりではないはず。現代人には根本的に時間が足りていないのだ。時間が足りない理由は簡単。働きすぎなのだ」
「日本の労働時間は世界でもトップクラスの長さなのは言うまでも無い。確かに、バブル以前も労働時間は世界的に見て長かった。大きく寄与しているのは日本人の生活の変化だ」
「例を出すなら営業時間が伸びた小売・飲食業だ。今の日本の大手小売・外食チェーンで平日に休んでいる店はまず無い。彼らがシフト制を敷くことで、従業員の見るテレビ番組はバラバラになる。加えて夜遅く、いわゆるゴールデンタイム以降も営業していれば、その従業員分の視聴者が減るのだ。さらには、遅い営業時間中に来店する客が増えることで、来客分も視聴者が減る」
「不況による人員削減、それによる正社員一人当たりの労働時間増加も見逃せない。正社員はワープアに比べれば確かに収入はいい。だが働き詰めで時間が無く、かと言ってバブル期ほどの収入があるわけではない。テレビを見る時間も少なく、特に単価の高い自動車・住宅などの広告の対費用効果は減る一方。そのような費用のかかる商品は現代で即決するのは無謀だ」
ワープアは時間も収入も少ない。金と時間のかからない趣味に走るのも無理は無い。さらに言えば、安く済むのであれば収入がどの程度であれ、そちらを選ぶのが道理」
「要するに、バブル崩壊以降の、かつての幻想を追い求める事に躍起になり、働かなきゃいけない、という価値観が出来たことで、自分の首を絞めているのが今の日本だ」
「テレビ局は、働きすぎれば時間が無くなると言う当たり前のことを認識できなかった。過労死や残業を非難することで労働に対する新たな価値観の生成を促せていれば、テレビ視聴時間・視聴率をキープ出来たかもしれないことを後悔しなければいけない。それは今からでも遅くない」
ポルト玄蔵氏コラム「すべての悪い方向」より抜粋