書初め(名古屋コ〜チン氏の)


『ラブ・ナヴィゲーション Side:S』


私はと言えば、入学当初から何かと話題だった。
一年生とは思えない物腰とか、大人っぽい容姿とか。自覚は無くても、周りの期待は高かったらしく、上級生からは言い寄られたり、誰のお部屋番に選ばれるのだろうとか、一年次の騒がしさといったら本当に迷惑なものだった。お部屋番に選抜されて面倒な仕事が増えてもかまわなかったが、とにかく周りが五月蝿かったのだ。
だが話題に上がるのももちろん少なくなる。
当時生徒の間で最も敬愛されていた鶴田先輩のお部屋番に選ばれたあたりから。
私はどうやら見た目以上に性格に難があるらしく、敵を作りやすいらしい。
目に見えるいじめは無い。鶴田先輩のお部屋番なのでそれが表沙汰になれば苛める側が公開処刑されかねないからだ。だからなるべく、私と鶴田先輩が絡まないような場所でそうしたことは行われる。
そんなものには屈しない。でも強がれば強がるほど孤立する。
一年生として過ごす日々はそれだけで終わるはずだった。


ふと、普段からのいじめと冬の寒さにさすがに参って、ちょっとだけ目を潤ませながら上級生にぶつかってしまった。顔を見られたくなかった私はすぐ立ち去ろうとしたのに。
「おい、大丈夫かい?」
と、手を掴んだのだ。
さらには引っ張って、密着。
「君、秋山洵さんでしょ?鶴田先輩のお部屋番の」
「そう、ですけど」
その上級生は、ふう、と溜息をついた。
「ちょっと、見てらんないや。 秋山さん、あまり強がってると本当に良くないぞ」
「何をですか」
「あたしは・・・まあ生徒会の人間なんだけれどさ、鶴田さんも生徒会だから君の事は有名なんだ、それなりに」
「・・・離してくれませんか」
「鶴田さんはマイペースだから・・・他人のことは結構楽観視するから。でも生徒会には筒抜けだよ、秋山さんが苛められているの」
ものすごい近い距離で見つめてくる。まるで影を縫われたかのように動けない。視線が真っ直ぐ過ぎて。
「あの、あなたには関係―――」
ぽふっ。胸に埋められてしまった。
「だから、無理するんじゃないって。まあ言っても無理しそうだから、本当にダメだと思ったら、あたしに相談しなよ」
このとき初めて、ずっと張り詰めていた心が、ふらつくようにクラクラした。そして私はこの人が誰かをやっと思い出した。
一学年上の湖橋蓮先輩。『裏表の無い性格の天然がいるよ』と鶴田先輩に教えられていた人。
思い出して、だけど湖橋先輩は私をもう体から離していた。ちょっとばかり大胆なことをやってしまったと、照れくさそうに笑っていた。
だから今度は、私から抱きついた。
「どうした?」
「・・・相談ではないですけど」
「?」
「もう少しこのままで、いさせてください」
この人の優しさは、あっという間に今までの私を崩壊させてしまった。悪い意味ではなく、鬱屈した駄目な積み重ねを打破してくれた。
この日を境に、ちょっとずつ変わっていくのだった。


コ〜チン氏『要約もいいところです』